コラムCOLUMN
はじめに
「従業員が安心して働ける会社にしたい」——その想いを、制度や研修という“仕組み”に落とし込み、着実に実行している企業があります。
北海道を中心にカー用品販売や車検・整備、新車中古車販売、損害保険の販売などを手がける株式会社北日本オートバックス。同社では、従業員の将来設計を支えるため、弊社の、従業員向け「ライフプラン研修」を全拠点で導入し、約2年間にわたり継続して実施してきました。
今回は、代表取締役専務の和田智一様に、導入の背景、実施して見えてきた課題や手応え、そして「従業員の未来」に向き合う経営者としての想いを伺います。
インタビュー概要
・取材先:株式会社北日本オートバックス 様
・URL: https://kitanihon-autobacs.com/
・事業内容:カー用品販売/車検・整備/新車中古車販売/損害保険販売 ほか
・登壇者: 株式会社北日本オートバックス 代表取締役専務 和田智一 氏
・聞き手: 一期コンサルティング 代表取締役 FP 船田勝太
・主なトピック:
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- 従業員への想い・経営者としての視点
- 金融教育研修導入の背景
- 研修実施後の変化
- 今後の展望
インタビュー本編
1)まずは会社のことを教えてください
船田(一期コンサルティング):
本日はお時間をいただきありがとうございます。これまで金融教育研修では大変お世話になりました。改めて、北日本オートバックス様の事業内容と従業員数について教えてください。
和田様(北日本オートバックス):
メインはカー用品販売で、それに付随して車検・整備、新車・中古車販売、損害保険の販売などを行っています。従業員は約530名ほどです。
2)合併・再編の中で見えた「待遇の混在」と「お金の不安」
船田:
研修をご一緒する中で、従業員の皆さんをとても大切にされている会社だと感じていました。研修導入前、従業員の「お金」や「将来」について、どんな課題感があったのでしょうか。
和田様:
2017年10月にグループ内再編があり、子会社の買収・合併が続きました。もともと150人強の会社が300人規模の会社を買収し、最終的には9社が1社になるような形でした。
その中で大きな課題になったのが、従業員の待遇が“ぐちゃぐちゃ”になってしまっていたことです。以前の会社の基準のまま給与が変わらない人、一般社員なのに役職者より給与が高い人など、基準が混在していました。
そこで、「一つの会社として」従業員の価値基準を改めて整理し、賃金規定などを見直す必要があると考えました。
3)「退職金を月額に還元」——ただ、従業員は“自分で考えられていなかった”
船田:
制度改定の方針としては、どんな考えがあったのでしょう。
和田様:
当初は、できるだけシンプルにしたいという観点から、給与制度を改定しました。具体的には退職金制度をなくして、月額報酬に還元する形に変えたんです。
「その中で自分で考えてください」というスタンスですね。人生は自分のものなので、自分で考えられるように。
ただ、実際どうだったかというと……「実は何も考えていませんでした」「おんぶにだっこでした」という状態が少なくなかった。
資産運用やiDeCoをやっている人とやっていない人で差が出てくる。保険も見直したら要らないものが出てくる。
従業員に任せるというメッセージが、こちらの意図と違う形で解釈されていた感覚がありました。生活のリズムが狂うと仕事にも影響します。生活が成り立たなくなるのは会社側の責任でもある、と捉えました。
だからこそ「考えるスタートラインを作ってあげる必要がある」と思ったんです。
船田:
制度を変えるだけでは足りなくて、「考えられる状態」を一緒に作らないといけない、ということですね。
和田様:
そうですね。制度は渡した。でも地図がない。となると「どこに行けばいいのですか?」になりますから。
4)なぜ金融教育・ライフプラン研修だったのか
船田:
数ある福利厚生や研修の中でも、なぜ「ライフプラン研修」に着目されたのでしょうか。
和田様:
どんな研修でも、生活に余裕がなければ聞く気になれないと思うんです。
お金の面で言えば、従業員の「手取りを増やす」ことが重要だと考えました。給料を上げるだけでなく、支出を減らす、DC(確定拠出年金)を活用するなど、選択肢はいくつもあります。
ただ当初は、「なぜ会社がそこまでやる必要があるのか?」「お金のことは自分で考えるべきだ」という文化も根強く、社内でも戸惑いの声が少しありました。
それでも、私の身近な人たちが実際に試してみると、確かに恩恵を受けている。そこで少しずつ、必要性を理解してもらえたと感じています。
船田:
従業員が“考え始めるきっかけ”をつくること自体が、経営の大切な役割だと改めて感じました。
5)外部の専門家だからこそ、従業員に“まっすぐ届く”
船田:
外部の専門家と一緒に取り組むことを選んだ理由も、印象的でした。
和田様:
私は、外部に依頼すると最初から決めていました。会社が全部やると、良くも悪くも「会社の思惑」を感じさせてしまう。
従業員に「会社が何か企んでいるのでは?」と思って聞いてもらいたくなかった。
また、人事・総務が話すのと、資格を持った専門家が話すのでは全く違います。だから最初から第三者の専門家に依頼しようと思っていました。
そして、人生のプランは最終的には自分で考える必要があります。そのためのスタートラインを作り、必要ならその延長線上に研修やセミナーを設計出来ればと考えていました。
船田:
私たちとしても、研修は“正解を押し付ける場”ではなく、従業員の皆さんが自分の暮らしを言葉にして、選択肢を持てる場でありたいと思っています。
6)変化は「すぐには出ない」——だからこそロングスパンで見る
船田:
研修後、従業員の反応や変化はどう感じていますか?
和田様:
これは1〜2年単位で劇的に変わる話ではないと思っています。少しずつ変わっていくのが実態でしょうね。
現場が“効果”として感じるのは5年後かもしれない。DCも始めて1〜2年目。少しずつ資産に変化が出始める頃です。
また、従業員のご家族にも一緒に聞いてもらいたい。生活の話は個人だけで考えるのではなく、世帯で考えるべきですから。そこまではまだ到達できていないですけど、目指したいですね。
船田:
短期ではなく中長期で、従業員に「自分で選べる未来」を残そうとされている点に、この取り組みの本質があると感じました。
7)今後は「ライフイベントのリテラシー」を高めたい
船田:
取り組みを通じて、和田様ご自身の気づきはありましたか。
和田様:
年齢の違いによる考え方の差が明確になりました。支出を抑える、資産運用といった観点は、実は若手の方ができている。
一方で、若手は結婚・出産などライフイベントがこれからたくさん待っている。50代以降はリタイアや親の介護を見据えたプランニングが必要になる。
今後は、介護、産休など、ライフイベント一つひとつのリテラシーを高めていきたい。イベントへの理解が低いことで生活に負担がかかったり、仕事のキャリアに影響が出てしまうことがあるからです。
船田:
ライフイベントという“私生活の解像度”を高めていくことが、結果的に仕事への不安やネガティブな影響を減らすことにつながる——その視点がとても印象的でした。
8)他企業の経営者へ——「家庭が安定して働ける」ことが土台になる
船田:
金融教育やライフプラン研修に興味はあるけれど、踏み出せていない企業も多いと思います。最後にメッセージをお願いします。
和田様:
賃上げや休暇といった制度面に目が向きがちですが、従業員は一人ではなく、それぞれに家庭があります。だからこそ、家庭を安定させたうえで安心して働いてほしいと考えています。
会社が得をするか、従業員が得をするかという二項対立ではなく、お互いが幸せに働ける関係でありたい。
ライフプランやお金の話をすると、従業員は自然と生活の話をし始めます。そこで見えてくるのは、多くの人が給与の「額面」ではなく、実際に使える「手取り」を基準に考えているという現実です。
だからこそ、このライフプラン研修は、金融リテラシーを高めるだけでなく、「自分の人生について一歩踏み出す」きっかけとして非常に有効だと感じています。
効果がすぐに表れるものではありませんが、時間を掛けて積み重ねることで、老後や本当に必要な時にお金がある状態をつくる。その出発点になる取り組みだと思います。
おわりに
和田様のお話を通して印象的だったのは、制度を整えること以上に、従業員一人ひとりが自分の人生を考えられる状態を大切にされている点でした。
私たち一期コンサルティングも、お金の話を始める前に、生活や価値観、これから迎えるライフイベントを整理することを重視しています。
ライフプラン研修は即効性を求めるものではなく、時間をかけて少しずつ根付いていく取り組みだと考えています。
生活の不安が和らぐことで、仕事への向き合い方や将来への視点にも変化が生まれていく。
そうした土台づくりの一つとして、ライフプラン研修が、企業そして従業員の皆さんの力に少しでもなればと考えています。
取材にご協力いただいた和田専務、北日本オートバックスの皆さま、誠にありがとうございました。
<和田専務 プロフィール>
札幌生まれ、東京育ち。仕事で多忙な父に代わり、母のもとで育つ。
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスを卒業後、本田技研工業に入社し、総務・人事領域を中心にキャリアを積む。
その後、オートバックスセブンを経て、北日本オートバックスに参画。
組織再編や人材・制度づくりに携わりながら、現在は代表取締役専務として経営を担う。
コロナ禍にMITでMBAを取得。
企業経営と人材育成の両面から、「働く人の人生に向き合う経営」を大切にしている。



